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• • 　残滓—金色のルアーが絡まっていました。欲望の残滓、という言葉が脳裏をよぎりました。この後片づけを怠ったがために起こるかもしれない野生の悲劇への想像力を、放置者はいっさい持っていないのでしょう。かつて同じく放置された釣り針を飲み込み、苦しみぬいて息絶えた水鳥の姿を知っています。
  • 奥入瀬中流域
  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
• • 　雪のあとで―薄い雪雲がはらりと粉雪を落として通り過ぎていきました。すっかり冬の顔つきとなった青空が広がり、陽の光が木々の上にうっすらと積もった雪をどんどん溶かしていきます。季節のせめぎあいが見せてくれる絶妙な光景に、今日もすっかり見惚れています。
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• • 　落ちていたブナの殻斗―さて、ここからどんな物語がはじまるのでしょうか。小さな物語が大きな物語につながっていくのでしょうか？
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• • 　苔の橋―一本の倒木がみっしりと緑の苔に覆われています。小さな緑の存在に関心を持つようになってから、視野がすぼむような感覚で、緑のマットを構成しているそのひとつひとつに焦点が合うようになりましたが、そこに視点を置いたまま、ぱっと全体を眺め渡したときの、なんともいえないハッとした感覚もまたたまらない。それは、この「緑の橋」を渡っていく、さまざまな小さな生きものの存在への認識にもつながっていくのです。
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• • 　四股を踏む藪切―遊歩道の欄干の人口杭の上で頑張って四股を踏んでいるヤブキリを見つけました。この森のキリギリスは晩夏から秋にかけて、比較的よく姿を見せてくれます。ふだんは森のどのあたりで、どんな暮らしをしているのでしょうか。またどんな声で鳴くのでしょうか。
  • 奥入瀬中流域
  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
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• • 　霧の長沼—蔦の森はよく霧がかる森です。谷である奥入瀬よりも霧深い日が多いです。蔦七沼のうちの長沼は、湖岸のかけあがりの尾根筋から眼下に水の色の変化を楽しめるところですが、こういう霧の白に埋もれた眺めもまたよいものです。
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• • 　鍾馗蘭—初めは「瘴気蘭」かと思っていました。愛らしさの陰に、なんともいえぬ妖気を含んでいるからです。蠱惑的な美少女の匂わせるそれにはクラクラさせられてしまいます。これをあの髭面の鍾馗になぞらえるとはなんとも無粋。かのナボコフならどんな名前を付けたでしょうか。
  • 十和田湖畔
  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
• • 　実は花のうちから―奥入瀬の森でも少し前からダイコンソウの花がさかりを迎えています。花期の長い花です。黄色い花びらがまず目を引きますが、つんつん伸びた黒いおしべも特徴です。中央の緑の「球」がしっかりとふくらんできていることにも気づきました。これが実になるのですね。
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• • 　径にて—ズダヤクシュの花が、ニリンソウやノブキたちと一緒に遊歩道のド真ん中で咲いていました。なんだか「さあ踏めるものなら踏んでごらんなさい」とでもいわんばかり。なんだか「踏み絵」のような気もします。でも、もちろん心あるビジターたちには踏めるはずがありません。
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• • 　のねずみ—春の乾いた森の底がかさこそいうので、のねずみかしらと思ったらやっぱりそうで、でも、こちらのことなど視線などもまったく気にするようすはなさそうで、もぐもぐもぐもぐ、ただひたすらに、せっせせっせと昨夏に落ちたカエデの種子を食べているのでありました。
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• • 　夜の樹—おだやかな夜でした。煌々とした月あかり。ちらちらとまたたく星たち。静かな夜の雪の森。こわいものはありません。人工的な灯は持たず、月のかがやきをあびながら進みます。キュッ、キュッという雪を踏む音だけがひびきます。私の好きな、あの木のもとへ向かいます。
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• • 　薄暮の蔦沼―昼間から厚い雪雲に覆われて、陽の力のなんともよわよわしい日でした。森の中で過ごし、もうそろそろ帰ろうかと沼のほとりに出てみました。午後17時、水墨画のような世界が広がっていました。思いがけず素敵な景観に息を呑み、しばらくその場から動けませんでした。
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• • 　霜柱—よく耳にする割には、実物にお目にかかる機会はほとんどありませんでした。遊歩道の傍の、わずかに土が露出した部分が盛り上がり、そこから蒼い氷の柱が顔を出していました。おお、これが霜柱かと感無量。雪がどさっと降ってしまえばすぐに会えなくなる、駆け足の風物詩。
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• • 　氷の色—粘土質の土壌から滲み出てきた水が凍って、琥珀、もしくはキャラメルのような色あいになっていました。子供の頃、親戚の家に遊びにいったら、テレビの上にこういう色の石が飾ってあって、それにやけに魅かれてしまい、滞在中にずっと眺めていたことを思い出しました。
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• • 　初雪と黄葉—まだ黄色い葉が残っているうちに初雪が降りました。とてもよい感じの眺めとなります。散りきらない「なごりの黄葉」の上に、薄く、うっすらと降り積もった白い雪。晩秋と初冬のせめぎあい。そろそろですよ、もうそろそろ冬ですよと、やんわりせかしているような。
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  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
• • 　水底の砂利—今日はしばらく川底の小石の群れを眺めていました。ひと粒ひと粒が際立って、とても美しいのです。水門が隔てられる晩秋の奥入瀬は水量が減り、浅くなった流れは支流から供給される水も混じって透明度が増します。水底の玉砂利の存在感が引き立つ季節となるのです。
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• • 　山葡萄の実—苔むした倒木の上に山葡萄（ヤマブドウ）の実が房ごと落ちていました。深い藍色に染まった、じゅうぶん熟れた実の連なり。なんだか渋い宝石のようにも見え、それらをつなぐ紅い茎またお洒落です。美味しそう、という思いよりも先に綺麗だなという思いが先立ちました。
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• • 　落葉Ⅲ—ミズナラの黄葉が落ちました。朝のひかりに透かされたそれはなんともいえない色あいです。虫喰い痕の穴も、茶褐色の腐れも、そのなにもかも絶妙のバランスでひとつの作品を作っているようにも見えます。無数に降る落葉のひとつひとつの個性を想うと、目がくらみそうです。
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• • 　開傘前—傘を開く前のきのこが出ていました。坊主あたまのかわいらしさが魅力的です。きっとテングタケ（天狗茸）の仲間でしょう。傘の色や形状、縁に溝線があることなどから、タマゴテングタケモドキ、ミヤマタマゴタケあるいはバライロツルタケなどの名称が思い浮かびました。
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• • 　楠蚕—大きな山繭蛾（ヤママユガ）の仲間である楠蚕（クスサン）の姿を見かけるようになりました。翅に象られた大きな目のような眼状紋（がんじょうもん）が特徴。ホオノキの若木の葉の上で、巣立ったばかりのヒナ鳥のように何度もパタパタと羽ばたきを繰り返していました。
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• • 　露草の青—露草（ツユクサ）もまた森の花ではなく、路傍の花です。歩道沿いの明るい場所や駐車帯となっている広場などの縁で時どき見かけます。清楚な見かけとは異なり、増えるとなると爆発的に増殖するずぶとさを秘めていますから、森ではちょいと見かける程度でよいのでしょう。
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  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
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• • 　こういう森もある—カメラのズームを動かして「タカの目にしている光景」を再現したことで、ちょっと味をしめました。自分が「心の目」で感じている森を表現してみたいと思い、カメラを横振りして何枚か撮ってみたところ、意外にもイメージに沿った森の情景が写っていました。
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  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
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  • ©河井 大輔 Daisuke Kawai
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